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四 診
四診について
~望聞問切を深める~
ある名医は『脈は触るんじゃない、切るんだよ』と弟子に伝えました。
切るように脈を見る。弟子は与えられたこの言葉を、毎回、患者さんの脈を診る時に必ず思い出すのです。
言葉を感覚に載せるために。毎回毎回、脈を切って診る。
また名医はこうも言いました。『人間も所詮動物だ。動物が動物を見ているという実感を忘れるな』
感覚的理解は、あくまで主観です。主観は必ず、客観性に担保されなければなりません。しかし、外科的手術の際も、内科的な治療の際も、やはり動物が動物を見ているという実感は、命に携わるものにとって必要不可欠です。
お産で子宮からの出血がひどく、今すぐ子宮を取らなければならない。
その瞬間、外科医は動物的直感に従って子宮を取ります。
水が足りず、意識が朦朧とした子供。
点滴路を確保する小児科医はこの子に水を入れなければいけないという動物的直感で手を動かします。
みる きく さわる 望聞問切。古来から医療の基本であり、また経験を積むという意味では歴史を形成してきた診療技術です。現代医療におけるデータ・画像の蓄積もまた、本来はみる きく さわるの一部であるべきです。
しかし、先生に症状を説明しても理解してもらえなかった患者さんたちは皆、口を揃えてこう言います。
『あの先生、パソコンの画面ばっかり見て、全然私の方見てくれなかった。お腹を触ってもくれなかった』
データも画像も大事です。それでも何より大事なのは、不定愁訴であろうが、西洋医学的には意味をなさない所見であろうが、患者さんの訴える症状を見て、触って、捉えようとする情熱だと思います。百万通りの顔色。体型。舌の色。脈の打ち方。お腹の所見。
咳の仕方。聴診所見。西洋医学は、原因追求の医学であるが故に、原因のわからない症状を苦手とし、無視しがちな側面を持ちます。
東洋医学は、原因がわからなくても、現象として存在する症状を説明することができます。器質的異常だけでなく機能的異常を説明しうる医学です。動物的直感は四診を育てる土壌です。四診を深めることによって、症候を理解する上で西洋・東洋の医学の離開地点が融合するところまで、至る道があります。
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